鵜目鷹目07. テール・リスクについて

2011年5月20日掲載

テール・リスクとは

テール・リスクとは、発生確率が小さいが、生じると大きな損失のことを指す。具体例では、90年代後半のロシア通貨危機や、2008年のリーマン・ショック等のように短期的に大きな下落に見舞われたこと等を指す。1987年10月のブラック・マンデーは、相場が上昇過程の中で、一時的な調整で終わったが、ボックス圏の中で推移する中でそうした事態に遭遇すると、長期的なダメージは大きい。今回は、この点についての分析と対応を検討してみたい。

図1 1970年以降の日本株の月次のリターン分布

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【図について】
1970年1月末~2011年3月末までのTOPIX(配当込み)の月次リターンの分布です。

【出所】
(株)東京証券取引所データを野村総合研究所Super Focusより取得し、野村アセットマネジメントが作成

テール・リスクを回避する重要性

分布の形をみると正規分布に近いと思われるが、視認ベースでも、やや左に偏った印象をうける。ちなみに、この間のサンプル数は494個である。そこで、リターンの低い方から15サンプルの月に株式の運用ではなく、短期金利に乗り換えて運用したとして、累積のリターンにはどのような違いが生じるだろうか?それを見たのが次の図である。

図2 テール・リスクを回避した場合の累積投資収益の推移

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【図について】
期間は1970年1月末から2011年3月末まで。

【使用した指数等】
TOPIX(配当込み)
短期金利:有担保コール翌日物金利(月中平均)

【出所】
(株)東京証券取引所、短資協会データを野村総合研究所Super Focusより取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

長期でみると大きなリターン格差が生じている。計測期間中の複利リターンはTOPIXが5.5%(年率)、テール・リスク回避型は11.2%となっており、5.7%も違いが生じている。

15サンプルの各々の下落は-10%近傍ないしはそれ以上のマイナスである。計測期間中のTOPIXのリターンは平均7%程度(単利ベース)であるから、一度でもこの下落を避けることが出来れば、平均的な1年分以上のリターンを稼ぐのと同じ意味で大変重要である。

テール・リスクを回避する対処方法

対処方法は、ファンダメンタル分析に基づいて、割高になったと判断すれば、株式比率を下げ、割安になったと判断すれば、株式比率を引き上げることが考えられよう。また、本稿の第四回で取り上げたように、長期ボックス圏を想定した上での逆張り手法もあろう。更に、本稿の第二回で取り上げた中長期的な成長率の高さに注目した資産クラスへの分散投資(例えば、新興国への投資)があろう。これらの共通点は、ファンダメンタルの強さについては、見方は異なるものの、価格の行き過ぎはいずれ修正されるだろうと考えることである。こうした考え方をすることで、目先の価格変動に振り回されて後追い行動に陥ることを避けたい。

上の三番目の方法について、少し補足しておきたい。下の図に示したように、リーマン・ショック前後の各株価指数の推移をみると、下落そのものは新興国の方が大きかった。しかしながら、その後の回復は新興国の方が強く、現在では、リーマン・ショック前の水準にほぼ戻っている。その意味で、事前の段階で、テール・リスクを避ける重要性が高いのは、日本のように長期ボックス圏にある市場ということがわかる。一方で、新興国市場でテール・リスクを避けることが出来れば更に高いリターンを享受することが出来よう。

図3 日本株、先進国株、新興国株の累積投資収益の推移

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【図について】
期間は2008年8月末から2011年3月末まで。

【使用した指数等】
日本株:東証株価指数(TOPIX)
先進国株:MSCI-KOKUSAI指数(円換算ベース・為替ヘッジなし)
新興国株:MSCIエマージング・マーケット・インデックス(配当込み・円換算ベース)

【出所】
(株)東京証券取引所、MSCIのデータを野村総合研究所Super Focus、トムソン・ロイターより取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

一番目のファンダメンタルに基づいた判断をするには、ファンダメンタルの構造を掴んでおくことが望ましい。下に、新興国株を例に米国経済と商品市況で分析した結果を示した。9.11後で米国株に対する感応度はやや上昇、米国金利に対する感応度はマイナスに変化、商品市況に対しても感応度は高くなっている。ここでは分析していないが、規模の大きい新興国の金融政策の動向にも注意を払った方が好ましいだろう。

以上、テール・リスク対処として、事前のファンダメンタルズの確認や資産の分散、事後においても逆張り的な手法を合わせながらの対応が望ましいだろう。これは、テール・リスクまでとはいかない下げ、即ち、景気循環の中で生じる継続的な下げについても、基本的な対応法は同じである。重要なのは、価格の動きに振り回されて、全体を見失うことを少しでも避けることである。

表 新興国株の感応度

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【表について】
計測期間は1987年12月末から2011年3月末まで。
新興国株のリターンを被説明変数、米国株のリターン、米国金利の変化幅、商品のリターンを説明変数として重回帰分析をした結果です。
米国株、米国金利、商品の列の上段は回帰係数、αの上段は切片の値です。下段はt値、決定係数は自由度調整済みの値です。
回帰係数とは各説明変数の重みを示す値で、ある説明変数が1変化した場合に被説明変数(新興国株のリターン)がどの程度変化するかを示していると解釈することが出来ます。切片は、米国株、米国金利、商品の値がすべて0であったときに推定される新興国株式リターンの値です。t値とは、被説明変数の変動を説明する変数として、各説明変数が意味をもっているかどうかを見る測度です。一般的に絶対値で2以上あれば、意味があるといわれます。決定係数とはモデルの説明力を測る値で、値が大きいほどモデルの説明力が高いと解釈することが出来ます。

【使用した指数等】
新興国株:MSCIエマージング・マーケット・インデックス(配当込み・ドルベース)
米国株:S&P500株価指数(配当込み・ドルベース)
米国金利:10年物財務省証券利回り
商品:S&P GSCI商品指数(ドルベース)

【出所】
MSCI、スタンダード&プアーズ社、FRBデータを野村総合研究所Super Focus、トムソン・ロイターより取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

【使用した指数の著作権等】
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