鵜目鷹目16. サッチャーと英国経済の関係

2012年4月20日掲載

英国経済の経験から
現在の経済環境下での資産運用に示唆されるもの

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」という映画がこの2012年3月に公開された。言うまでもなく、サッチャー英元首相の半生を描いたものである。サッチャー氏は、インフレにあえぐ英国経済を立て直したと言われる。デフレである現在の日本とは真逆の環境ではあるが、当時の英国経済を概観しながら、現在の経済環境下での資産運用に示唆されるものを検討してみたい。

サッチャー氏が首相になった時代背景

まず英国の名目GDP及び実質GDP成長率の推移を図1に示した。

図1 英国の名目GDP及び実質GDP成長率の推移

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【図について】
期間は1970年から2011年まで。
記載した主な出来事は、その年に起きたことを記載したものであり、名目GDP成長率と関係を示唆するものではありません。
の名前は各期間での歴代首相名です。

【出所】
英国中央統計局のデータを野村総合研究所Super Focusより野村アセットマネジメント作成

 

サッチャー氏が首相になる時代背景として、①経済ではインフレが亢進したこと、②政治では第一次石油危機、ベトナム戦争終結で、東側・第三世界が西側に挑戦する流れがあった。英国内では75年に出来た賃金上昇率規制(5%まで)に対する組合の反発が始まり、78年末~79年初にかけて組合の大規模なストライキが頻発。フォード組合の30%賃上げ要求が17%で妥結したことを契機に、混乱に拍車がかかった。同じ頃の79年2月にはイラン革命による第二次石油危機が始まり、中国のベトナム侵攻も始まった。

サッチャー氏が実施した政策

こうした中で、サッチャー氏は79年5月に首相に就任し、上記2つの流れを変えるべく政策を実施することになる。まず就任直後より、65年から続いていたローデシア紛争の調停に乗り出し、79年12月にランカスターハウス協定を成立させた(80年4月にジンバブエとして独立)。経済面に目を向けると、インフレ対策として、マネーサプライ管理によるインフレ抑制を始めると同時に、膨れ上がった政府支出を抑え、小さな政府を目指すべく、国営企業の民営化に着手した。もっとも、第二次石油危機が始まっていたこともあり、インフレ率は高止まり、80年、81年と実質GDPがマイナス状態に陥った。その中で82年4月にアルゼンチンとの間でフォークランド紛争が始まる。幸い、この紛争に勝ったことで国民の支持率は上がり、83年の選挙に勝利し、2期目となる。先に挙げた国営企業の民営化政策が着実に実行されはじめた。例を挙げると84年にブリティッシュ・テレコム、85年にナショナル・バス・カンパニー、86年にブリティッシュ・ガス、87年にブリティッシュ・エアウェイズ、ロールス・ロイス等の民営化が行われた。

図2に、株式、小売物価、為替(ポンド/ドル)の前年同月比の推移を示した。サッチャーの首相就任後、株式市場は下落傾向をたどり、79年12月に底をつけてその後反転している(図表は前年同月比で示しており、+40%超のところから10%台まで下がった箇所)。小売物価の上昇率は80年5月まで上がりつづけたものの、その後伸び率は鈍化を始めた。第二次石油危機で高騰していた原油だが、83年2月にアラビアンライト原油価格が34ドル/バーレルから30ドル/バーレルに下げられたことを受け、低下傾向を辿り始めた。為替は80年10月を境に対ドルでポンド安に転じ、それは85年2月まで続いている。

以上をまとめると、サッチャー時代(特に1期、2期目)の株式市場は高いインフレ率が徐々に低下する中で好調だったと言えよう。

図2 英国の株式、小売物価、為替(ポンド/ドル)の前年同月比の推移

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【図について】
期間は1978年12月末から1991年12月末まで(月次)。

【使用した指数等】
株式:MSCI UK指数(配当込み・現地通貨建て)

【出所】
MSCI、英国中央統計局、IMFのデータを野村総合研究所Super Focus、Datastream等より野村アセットマネジメント作成

 

最終的にサッチャーは90年4月に導入した人頭税の問題に対して、国民の怒りが爆発し、90年11月に退陣を余儀なくされる。図にもあるように88年頃からインフレ率が上昇し、経済成長も鈍化しており、それらも退陣に影響したものと見られる。
既に触れたように、この時代の株式市場は高いインフレ率の割に高いパフォーマンスを示している。株式はインフレのヘッジになるという言葉があるが、まさに地を行くような動きである。図3に5年毎の株式リターン、小売物価上昇率、実質株式リターンの推移を示した。インフレ率が高くても、実質株式リターンが高かったことがわかる。特にサッチャー時代は高い。この意味で、少なくとも名目のインフレ率はある程度、プラスであることが好ましいと考えられる。

図3 英国の株式リターン、小売物価上昇率、実質株式リターンの推移

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【図について】
期間は1970年から2011年まで。
1970年から2009年までは5年毎の年率換算値を示しています。ただし、2010年から2011年のみ2年間の年換算値を示しています。

【使用した指数等】
株式:MSCI UK指数(配当込み・現地通貨建て)
実質株式:英国の株式リターンと小売物価上昇率の差分です。

【出所】
MSCI、英国中央統計局等のデータを野村総合研究所Super Focus、Datastream等より取得し、野村アセットマネジメント作成

現在の日本経済

翻って、足元の日本を見てみよう。日銀は、今年2月の金融緩和で、インフレ率1%を目途という表現を使った。そのため、名目値の議論に注目が集まってきている。企業収益の観点で言えば、名目値が増えるということは売上が伸びるということである。パイの広がった分だけ、コストが増えても利益は増える要素がある。勿論、コストが先行すれば減益になる。しかしながら、5年程度のタームで見れば、一定範囲の物価上昇のメリットは大きいと言える。このことは、前回取り上げたリーマン・ショック後のインフレ率の上昇と株式リターンに関しての正の関係があったことに通じる。

資産運用に示唆されるもの

株式投資においては、名目のインフレ率がプラスになることにもっと注目すべきである。それは株式市場を通じて、企業業績に対する期待が先行し、実態が後を追うということでもある。なお、金融緩和政策は自国のインフレ率をコントロールする要素であるが、為替に着目すると各国の金融緩和の相対的な強さが影響を与える点に留意しておきたい。また、海外投資において、為替ヘッジ問題はつきものである。足元の各国の金融緩和によるヘッジコストの低下を考慮すれば、当面は名目のインフレ率動向に注目しておくことが望ましい。

 

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