鵜目鷹目18. 変化する新興国

2012年7月20日掲載

変化する新興国

世界の株式市場はリーマン・ショックを経て、あたかも収斂したように動いている。一方で、その中で新興国に着目すると、着実に変化が生じている。今回はその現状把握を目的としたい。

株式リターンからみた先進国と新興国の差

図1に日本株、外国株(日本株除く先進国株)、新興国株の累積リターンの推移を示した。
リーマン・ショックを経て、リターンに違いが無くなってきているように見える。

図1 日本株、外国株、新興国株の累積リターンの推移

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【図について】
期間は2007年12月末から2012年6月末まで。2007年12月末を100として指数化。

【指数について】
日本株はTOPIX、外国株はMSCI-KOKUSAI(円ベース)、新興国株はMSCI-EM(円ベース)。MSCI-KOKUSAI(円ベース)、MSCI-EM(円ベース)は、各指数のドルベースを元に野村アセットマネジメントが円換算。

【出所】
東京証券取引所、MSCIのデータを野村総合研究所Super Focus、Datastream等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

新興国の中で生じている変化

一方で、新興国の中を見ると、確実に変化が生じている。MSCI-EMに含まれる21ヶ国(2012年6月現在)を対象に、図1と同期間における累積リターンの上位3ヶ国と下位3ヶ国を図2に示した。

図2 新興国の中の格差

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【図について】
期間は2007年12月末から2012年6月末まで。2007年12月末を100として指数化。

【使用した指数等】
各国の株式リターン(円ベース)は、各国のMSCI指数(ドルベース)を元に野村アセットマネジメントが円換算。

【出所】
MSCI等のデータをDatastream等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

最もリターンが高いのはコロンビア、次いでタイ、チリの順となっている。一方下位は、ハンガリー、ロシア、エジプトである。
この違いは何だろうか?背景としてマクロの成長率の差が考えられる。図3に実質GDP成長を示したが、コロンビア、タイ、チリの成長率は高く、ロシア、ハンガリーの回復は遅れている。一方、エジプトは2010年まで高成長だったものの、その後減速している。

これら6ヶ国の状況を概観しておこう。

コロンビアは、日本ではコカインやゲリラのイメージをされるかもしれないが、実は70年代から南米の中で最も安定成長している。その様なイメージが強いのは、90年代の左翼ゲリラ活動の活発化によるものだが、2000年代に入り、ウリベ大統領のもと、治安は安定化し、同時に起きた資源ブームに乗った。また、内需主導経済のため、リーマン・ショックにも直接の影響を受けなかったことが大きいと考えられる。

チリは、73年のピノチェト将軍のクーデター以降、自由主義経済の元に安定成長してきた。2000年代の資源ブームにおいても、銅価格が上昇して安定成長を維持した。リーマン・ショックによって銅価格が下落、そして2010年には地震により打撃を受けた。しかしながら資源価格の回復や復興需要等により、失業率も低下し、安定成長を維持している。

タイは、リーマン・ショック後の政治的混乱、昨年の洪水にも関わらず、短期間で回復基調に戻っている。

一方、ロシアは2008年までの原油価格高騰で成長していたものの、原油価格の下落により、成長速度はやや鈍化している。ハンガリーは経常赤字が改善したが、経済成長は低く、失業率は高止まっている。

エジプトは、ムバラク政権下で成長していたが、2010年末にチュニジアで始まった民主化運動の広がりをうけて、ムバラク政権は11年2月に辞任し、軍最高評議会に権限が委譲された。その後、今年の6月17日の大統領選挙でイスラム原理主義系政党が勝利し、30日に党首のムルシ氏が大統領に就任した。こうした政治変動の中で経済は大幅減速した。株式も2003年3月末から2007年末までは新興国の中でトップの上昇率だったが、リーマン・ショック、政治的混乱を経て、低迷している。1989年のベルリンの壁崩壊によって、東欧諸国の経済は数年間マイナス成長が続いた。これらを踏まえると政治変動の経済への影響には注意が必要である。

図3 実質GDPの成長

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【図について】
期間は2007年から2012年。2007年を100として指数化。
2011年以降(コロンビアは2009年以降)の実質GDP成長率は、IMFの予測値を使用。

【出所】
IMFのデータより野村アセットマネジメントが作成

地域別の株式リターン格差

以上は、両極の国をみたものだが、もう少し大掴みするために、次の表に地域別の株式リターンの単純平均の変化を示した。

表 地域別株式リターンの平均

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【表について】
期間は2003年4月から2012年6月まで。
MSCI-EMに2012年6月現在で含まれる21ヶ国を地域ごとに分割した上で株式リターン(円ベース)を単純平均。
新興国全体、BRICsも同様に株式リターン(円ベース)を単純平均。

【使用した指数等】
各国の株式リターン(円ベース)は、各国のMSCI指数(ドルベース)を元に野村アセットマネジメントが円換算。

【出所】
MSCI等のデータをDatastream等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

これをみると、ラテンアメリカの地域がリーマン・ショックを挟んでも相対的に好調であるのに対して、欧州圏はリーマン・ショック以降のユーロ問題の影響を如実に受けていると考えられる。アジアはリーマン・ショック前の資源ブームに乗りきれたわけではないが、ショック後は相対的に下落率は小さい。また、以前注目を集めたBRICs諸国も最近は相対的に弱い。

新興国で起きている変化と運用への示唆

図1にあるように、新興国全体は、今のところ先進国とあまりリターンは変わりないように見える。しかしながら、今回みたように国別、地域別では大きな変化が起きている。やはり経済ショックや政治変動への対応如何でパフォーマンスに大きな影響が出ることは認識しておきたい。

運用への示唆をまとめておこう。世界的なバランスシート不況はまだまだ続く可能性が高い。従って、インデックス運用をコア戦略としても、中期タームでは地域ファンド等をサテライトとして活用することでパフォーマンスは改善の余地は大きいと思われる。また、その際には、一般のイメージに左右されることなく、経済的事実や政治変動を把握することが大切であろう。

 

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