鵜目鷹目21. ポートフォリオにおける米ドル建て新興国債券(円ヘッジ)の位置づけ

2012年10月26日掲載

米ドル建て新興国債券(円ヘッジ)のポートフォリオ上の位置づけ

この欄の第三回で保守的資産配分と新興国債券を取り上げた。この中で米ドル建て新興国債券(円ヘッジ)(以下、EM$債H)の活用を提案した。
今回は、EM$債Hの特性の歴史的変化を踏まえた上で、バランスシート不況下におけるポートフォリオ上の位置づけを検討してみたい。
以下、米ドル建て新興国債券をEM$債、米ドル建て新興国債券(円換算ベース)をEM$債円とした。

ポートフォリオ上の位置づけの変化

図1に日本10年国債、米国10年国債、EM$債の利回り推移を示した。

図1 各債券の利回り水準の推移

unome_takanome21_1.gif

【図について】
期間は1997年12月末から2012年9月末まで。利回りは月次ベース。

【指数について】
日本10年国債は、指標銘柄/新発10年国債。
米国10年国債は、10年物財務省証券。
EM$債は、JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス。

【出所】
ジェー・ピー・モルガン・セキュリティーズ・エルエルシー、FRB等のデータを野村総合研究所Super Focus、トムソンロイター等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

日本10年国債、米国10年国債、EM$債の利回りは共に低下している。これは、インフレ率の低下に沿ったものである。またEM$債のスプレッド(対米国10年国債)は2010年以降3%前後で安定している。

次に図2に、EM$債H、EM$債円、外国債券(先進国除く日本)のリスク推移を示した。

図2 各債券のリスクの推移

unome_takanome21_2.gif

【図について】
期間は1995年12月末から2012年9月末まで。
リスクは各時点から過去24ヶ月間の月次収益率の標準偏差を年換算した値。

【指数について】
外国債券は、シティグループ世界国債インデックス(除く日本、ヘッジなし・円ベース)。
EM$債円は、JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(円換算ベース)。
EM$債Hは、JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(米ドルベース)を日米短期金利差で控除。

【出所】
シティグループ・グローバル・マーケッツ・インク、ジェー・ピー・モルガン・セキュリティーズ・エルエルシー等のデータを野村総合研究所Super Focus、トムソンロイター等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

これをみると、各々のリスク水準は図1の金利水準の低下に伴い低下してきている。この中で、外国債券はリスク水準の低下はさほど大きくない。元々、EM$債より金利水準が低く、多くが為替の寄与となっていると考えられる。

直近のリスク水準は、EM$債Hは7%台、EM$債円は10%台、そして外国債券は9%前後である。このように、EM$債Hは外国債券のリスク水準と同等か、足元では低い状態になっている。この点はポートフォリオにEM$債を組み込む際のポイントとなる。

次に、EM$債Hと日本株式、日本債券、外国株式、外国債券の相関推移を図3に示した。

図3 米ドル建て新興国債券(円ヘッジ)と各資産の相関の推移

unome_takanome21_3.gif

【図について】
期間は1995年12月末から2012年9月末まで。
相関は各時点から過去24ヶ月間の月次収益率の相関係数。

【指数について】
米ドル建て新興国債券(円ヘッジ)は、JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(米ドルベース)を日米短期金利差で控除。
外国債券は、シティグループ世界国債インデックス(除く日本、ヘッジなし・円ベース)。
外国株式は、MSCI-KOKUSAI指数(円換算ベース)。
日本債券は、NOMURA-BPI総合。
日本株式は、TOPIX。

【出所】
(株)東京証券取引所、野村證券株式会社、MSCI、シティグループ・グローバル・マーケッツ・インク、ジェー・ピー・モルガン・セキュリティーズ・エルエルシー等のデータを野村総合研究所Super Focus、トムソンロイター等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

EM$債Hは90年代から2000年代前半まで日本株式、外国株式との相関が高かった(高いと言っても0.5~0.6程度なので分散効果はある程度享受可能なレベルである)。2000年代半ばはそれらも低下した。一方、2008年のリーマン・ショックを契機に日本株式、外国株式に加えて、外国債券との相関も高まった。そして2011年以降になると外国株式、外国債券との相関の高さはある程度維持される一方で、日本株式との相関が最も低くなった。

以上から、EM$債Hのポートフォリオ上の位置づけは過去と大きく変貌したと言える。以前のように、リスク水準が20%あった時代は、株式と組み合わせる場合、相関の低さのみが注目されただろう。今はEM$債Hのリスク水準が低下したので、組み込むことで相関と関係なく株式からみたリスクは低下する。特に、日本株からみた場合は効果的である。

一方、従来は、リスク水準が高かったため債券と組み合わせる、特に日本債券と組み合わせるなら、少し組み入れて効率を良くするいわばトッピングとしての位置づけであった。ところが直近のように7%台のリスク水準になると、日本債券と組み合わせるとしても、為替ヘッジをしない外国債券よりもリスク水準が低いため中心的存在になってくる。

図4に時期別の各資産のリターン、リスクを示した。

図4 各資産のリターンとリスクの変遷

unome_takanome21_4.gif

【図について】
期間は1994年1月から2012年9月まで。
1994年1月~1998年12月、1999年1月~2003年12月、2004年1月~2008年12月、2009年1月~2012年9月の4期間に区切り算出。
リターンは月次収益率の平均を年率換算した値。リスクは月次収益率の標準偏差を年率換算した値。

【指数について】
EM$債Hは、JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(米ドルベース)を日米短期金利差で控除。
外国債券は、シティグループ世界国債インデックス(除く日本、ヘッジなし・円ベース)。
外国株式は、MSCI-KOKUSAI指数(円換算ベース)。
日本債券は、NOMURA-BPI総合。
日本株式は、TOPIX。

【出所】
(株)東京証券取引所、野村證券株式会社、MSCI、シティグループ・グローバル・マーケッツ・インク、ジェー・ピー・モルガン・セキュリティーズ・エルエルシーのデータを野村総合研究所Super Focus、トムソンロイター等より取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

リターンは時期によって大きく変わるが、リスクは資産によって大きく変化しないと言われてきた。ところが、既にみたように債券は金利水準でリスク水準は変化してくる。この期間で最も大きく変化したのはEM$債Hである。なお、図4だと直近の期間でのリターンが15%を超えている。その前の期に生じたリーマン・ショックによる金利が上昇した後の低下局面であるためである。その前の期は金利上昇の影響を受けて低いリターンになっている。これは最初の期間(1994~98年)の98年秋にロシア通貨危機が生じて、金利が大きく上昇し、期間中のリターンが5%程度にとどまったのと同じである。

よりコアとして位置づけられる米ドル建て新興国債券(円ヘッジ)

今から投資するなら、足元の利回りが一つの目安である。勿論、投信を活用する場合、バイ・アンド・ホールドと違い、利回りが確定する訳ではない。米国金利の動向、為替ヘッジコスト、新興国のインフレ動向にも留意する必要がある。また、1998年のロシア通貨危機や2008年のリーマン・ショック時に流動性確保のために売られ、金利は上昇した。しかしながら、インフレ率が上昇したわけではないのでその後金利は低下した。今後も危機は生じることもあるだろうが、ファンダメンタル変化と市場の過剰反応は区別したい。

日米欧は財政赤字問題もあり、金融緩和に頼っている。しかしながら、ここまで超低金利になっても、企業貯蓄の余剰が続いている。投資需要が出てきて、この余剰が解消されない限り、インフレに基づいた本格的な金利上昇が発生する可能性は高くない。視点を変えれば、為替ヘッジコスト上昇の可能性も今のところ高くない。

以上を踏まえるなら、EM$債Hは、ポートフォリオに組み込む際に、よりコアとしての位置づけが好ましいだろう。

 

【使用した指数の著作権等】
●MSCI-KOKUSAI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCI に帰属します。またMSCI は、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。
●東証株価指数(TOPIX)は、株式会社東京証券取引所(以下(株)東京証券取引所)の知的財産であり、この指数の算出、数値の公表、利用など株価指数に関するすべての権利は(株)東京証券取引所が有しています。(株)東京証券取引所は、TOPIXの算出もしくは公表の方法の変更、TOPIXの算出もしくは公表の停止、またはTOPIXの商標の変更もしくは使用の停止を行なう権利を有しています。
●NOMURA-BPI総合の知的財産権とその他一切の権利は野村證券株式会社に帰属しています。また、同社は当該指数の正確性、完全性、信頼性、有用性を保証するものではなく、ファンドの運用成果等に関して一切責任を負いません。
●JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(JP Morgan Emerging Market Bond Index (EMBI)Plus))は、ジェー・ピー・モルガン・セキュリティーズ・エルエルシー(以下、「インデックス・スポンサー」といいます。)に帰属します。インデックス・スポンサーは、本インデックスを参照する証券、金融関連商品又は取引(以下各々「商品」といいます。)を、賛助し、支持し、又はその他の方法で推奨するものではありません。本書に含まれる商品に関する情報は、その提供のみを目的としたものであり、商品の購入若しくは販売を目的とした募集・勧誘を行うものではありません。本インデックスの情報源及びこれに含まれるデータ若しくはその他の情報は信頼できると思われるものですが、インデックス・スポンサーはその完全性及び正確性を保証するものではありません。インデックス・スポンサーは、いかなる商品への投資の妥当性について、明示黙示を問わず、何らの表明又は保証をするものではありません。インデックス・スポンサーは、いかなる商品の管理、マーケティング又は取引に関して、何らの責任又は義務を負いません。本インデックスに関する追加の情報については、www.morganmarkets.com をご覧ください。当情報の著作権は、ジェー・ピー・モルガン・チェース・アンド・カンパニーに帰属します。
●「シティグループ世界国債インデックス(除く日本、ヘッジなし・円ベース)」は、シティグループ・グローバル・マーケッツ・インク(CGMI)が開発した日本を除く世界主要国の国債の総合利回りを各市場の時価総額で加重平均した債券インデックスで、CGMIの知的財産であり、指数に関するすべての権利は、CGMIが有しています。