鵜目鷹目47. 2010年代後半の資産運用

2016年3月4日掲載

原油、人民元の下落を契機に年明けから株式市場は下落した。日銀もマイナス金利政策に踏み込んだが、為替が円高に振れ、市場の過剰反応に拍車をかけた。2月の半ばに入りようやく落ち着きつつあるかのように見えるが予断は許さない状況である。家計の資産運用は、「収入からの貯蓄」と「これまで蓄えた貯蓄」の総和をどのように運営していくかということである。今回は、この原点に戻り、また長期的な投資環境の変化や分散投資の有効性の変化を振り返りつつ、2010年代後半の資産運用のポイントについて考察していこう。

上記で述べた家計の貯蓄は以下のように概念的に表すことが出来る。

貯蓄(t+1)=貯蓄(t)×(1+rt)+kt×収入(t)

ここでtは時点、rtはt時点のリターン、ktは時点tの貯蓄率。

通常は、年齢が上がるにつれて仕事の生産性が上昇し、収入は増える。その中である割合kを貯蓄に回す。リターンや貯蓄率を一定率で正の値とすると、貯蓄総額は年々増加することは容易に理解できる。つまり、家計の課題として、若い時は収入からの貯蓄率の高低が大事で、年齢が上がるにつれて積みあがった貯蓄の運用をどうしていくかという問題が重要になってくる。

投資環境の変化

次に投資環境の変化を俯瞰しておこう。

1990年以前は、国内株式が右肩上がりで、適度なインフレ率で名目金利もそれなりにあったため、資産運用自体の方法は単純でも成果が出やすかった。ところが、1990年以降は国内株式のリターンは低下、金利低下により国内債券の価格は上昇したものの、預貯金金利は低下した。このためどの資産をどの程度組み込むかという資産配分で成果が異なるようになった。収入も1997年を境に伸び悩む傾向になった。運用面での解決策の一つは国際分散投資であり、海外で期待リターンの高いものに投資すれば、国内経済の悪化をある程度回避できた。2000年代に入り海外投資は本格化した。

また、2012年の終わりからスタートしたアベノミクスにおいては、金融緩和によってインフレ期待を起こし、また賃金を引き上げて行こうということであった。それは2008年秋に起きたリーマン・ショック後の過度の円高・デフレからの脱却を狙ったものである。

こうした施策は時間差があるにしても、日米欧で行われたために、世界的に金利は低下傾向(内外金利差は縮小)となり、為替ヘッジが低コストで出来るようになったのが2010年代の投資環境の特徴である。

分散投資の有効性

次に分散投資の有効性についてみておきたい。
まず図1に日本株と各資産の相関係数の推移を示した。

図1 日本株と各資産の相関係数の推移

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【図について】
相関係数は月次リターンの24か月分で計算。直近は2016年1月末まで。
HFHはヘッジファンド為替ヘッジ、EMは新興国、EM$債Hは新興国ドル債為替ヘッジ、EML債は新興国現地通貨建て債券。

【指数について】
日本株:TOPIX(配当込み)
日本債:NOMURA-BPI総合
外国株:MSCI-KOKUSAI(配当込み・円ベース)
外国債:シティ世界国債インデックス(除く日本、ヘッジなし・円ベース)
日本REIT:東証REIT指数(配当込み)
外国REIT:S&P先進国REIT指数(除く日本、配当込み、円換算ベース)
商品:S&P GSCI商品指数
HFH:HFRI Fund Weighted Composite Index(円換算ベース)
外国債H:シティ世界国債インデックス(除く日本、円ヘッジ・円ベース)
EM株:MSCIエマージング・マーケット・インデックス(配当込み・円換算ベース)
EM$債H:JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(円ヘッジ)
EML債:JPモルガン・ガバメント・ボンド・インデックス-エマージング・マーケッツ・グローバル・ディバーシファイド(円換算ベース)

【出所】
(株)東京証券取引所、野村證券株式会社、MSCI、シティグループ・グローバル・マーケッツ・インク、スタンダード&プアーズ ファイナンシャル サービシーズ エル エル シー、HFR、ジェー・ピー・モルガン・セキュリティーズ・エルエルシー、WMロイター、短資協会、野村総合研究所Super Focus、トムソン・ロイター、ブルームバーグ、Datastreamより取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

2000年代半ばまでは日本株との相関は低い資産は複数あったが、2008年秋のリーマン・ショックを挟んで多くの資産の相関が高止まりした。2011年になるとEM$債Hが低下し、その後も正相関ながら低い相関がみてとれる。また、日本債と外国債Hはマイナス相関が継続している。このことから、分散投資の中で、いわゆるクレジットリスクを有するものについては相関の高止まりが続いているが、金利リスクのものは日本株と相関が低いと言えよう。ただ、その過程で金利低下が続き、国債の利回りは非常に低くなっているのが現状である。2010年代後半を考える場合は、安定したインフレ率に基づく金利上昇がどの程度のスピードと大きさで生じていくかに注目していく必要がある。

原油価格と人民元

ここにきて世界を振り回し始めたのが冒頭で触れた原油価格と人民元である。昨年末からの原油安は、供給過剰を背景に米国のエネルギーセクター株やシェールガス関連のハイイールド債の下落を通じて、株式市場の不安定さに結び付いている。また人民元安も中国経済の行方を占う指標として、注目を浴びるようになってきている。特に日本株からみると人民元の相関が強くなってきている。その状況を図2に示した。

図2 日本株と人民元の相関

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【図について】
24か月間の日本株と円/ドルのリターン、日本株と人民元/ドルのリターンで相関係数を計算。直近は2016年1月末まで。

【出所】
Datastreamより取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

図2では人民元/ドルと日本株のリターンの相関を示している。2010年以降は、人民元安と日本株の逆相関がマイナスになり始めており、その状況が現在も続いていることが分かる。円/ドルと日本株の相関の高さは2006年ごろから恒常的に高くなっているが、これに人民元の動きが加わったとみておいた方がよさそうだ。それだけ中国経済が大きくなってきていることの証拠でもある。中国は過剰な生産力の調整を迫られており、例えば先日も政府が減鉄政策を発表した。雇用問題にも関係してくるため、進展次第で不安定な状況が生じるものと思われる。

今後の資産運用

こうした中で、2010年代後半をどのように乗り切っていけばよいだろうか?一つ目は国際分散投資が常識となった現在では為替の扱い方に意識を高くすること、二つ目は投資行動面で逆張りのスタンスを基本とすることである。

一つ目の為替はその背景にある先進国間の内外インフレ率格差は縮小傾向にある。つまり購買力平価変化のトレンドは生じづらい。2000年代半ばと違い、リーマン・ショックを経た現在では、日米欧は低金利状態となっており、景気回復の違いによる金融政策のズレに注目が集まりやすい。トレンドがない中でのズレに注目が集まると動きが激しくなるのが特徴である。1月末の日銀の金融緩和後の円高も、OECDの購買力平価で1ドル106円、IMFで103円と試算されている中で緩和した結果生じているとも解釈できる。インフレ格差の縮小で金利差の拡大も2000年代半ばまでの水準には戻りづらいことを考えるなら、リスク許容度に応じた為替ヘッジと為替ヘッジなしの併用が望ましい。

二つ目の逆張りの効用については、既に本コーナーの第4回で触れている。そこで当時使ったルールでアップデートしたものを図3に示した。

図3 順張りと逆張りの累積投資収益の推移

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【図について】
TOPIXの水準に応じて株式比率は比例して増減する方式で計算。具体的には、TOPIXの水準1250の株式比率を50%、短期金利を50%の配分として、順張り運用はTOPIXが1750の時に100%、逆に750で0%になるようルールとした。逆張りはその逆の方式。

【出所】
Datastreamより取得し、野村アセットマネジメントが作成

 

1992年以降でみると、逆張りが順張りに比べて高いパフォーマンスを挙げていることがわかる。勿論、この期間は循環相場であったことからより効果が大きかったと言える。アベノミクスが成功して、日本株はこの20年のボックス圏を上放れば、逆に順張り手法も有効になってこよう。しかしながら、その場合は、金利も上昇するため、過度に株式を追いかけなくても、そこそこのパフォーマンスが期待されよう。家計の目標はリスク許容度にもよるが、一般的にはインフレ率を上回ることが一つの目安である。そうであれば、取りうるリスクの範囲で逆張り的に動くことが大切と言えよう。

いずれにせよ、2010年代の後半は原油や中国の生産力調整の圧力が続く中、先進国の金融緩和政策に注目が集まる。先進国は低いインフレ率の水準で収斂する中でファンダメンタルなズレは小さく、大きなトレンドが生じにくい。その中では、ボラティリティが上昇しても長続きはしない。それに後追いすることは避けるべきである。

 

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